中古マンションを「生命保険代わり」に買った話。4,800万が7,500万になったインフレ防衛の実録

世間では何十年にもわたって「持ち家か、賃貸か」という議論が繰り返されている。

「賃貸の方が身軽でリスクが低い」「持ち家は資産になるが修繕費や住宅ローンという負債を抱える」

双方がそれぞれの立場から主張を繰り広げているが、我が家がマイホームの購入を決断した理由は、そうした情緒的な二者択一とは全く別のところにあった。

購入の最大の動機は、極めて明確な2つのリスク管理戦略である。

  1. 民間の生命保険に加入せず、住宅ローンの団体信用生命保険(団信)を家族の「主たる防壁」に仕立てること

  2. 世界的なインフレの波と将来の金利上昇を見据え、現金の目減りを防ぐための「実物資産」と「低利負債」を長期固定すること

新築デベロッパーの分厚い利益が乗った割高な新築マンションを避け、立地と躯体の確かな中古マンションを精査して取得。

水回りや内装を相見積もりで適正にリノベーションし、総額4,800万円で着地させた。

それから数年が経過した現在、建築費の高騰やインフレの進行、首都圏の不動産価格上昇が重なり、同マンションの直近成約水準および近隣相場から算定した市場価値は約7,500万円に達している。

帳簿上の含み益は約2,700万円に上る。

しかし、私がこの記事で伝えたいのは「不動産投資で儲かった」という派手な武勇伝ではない。

住宅購入の本質とは、転売益を狙うギャンブルではなく、「見栄を排し、家計の損益分岐点を低水準で固定し、万一の事態やインフレから家族の生活基盤を無傷で守り抜くためのディフェンス戦略」である。

この記事では、なぜ最初から民間保険に入らず団信を活用したのか、中古+リフォームで総額4,800万円に抑え込んだ実務手順、そしてインフレ下で負債を抱えることがなぜ最強の防衛策になったのかについて、客観的なデータを交えて記録する。

1. 民間生命保険に入らない選択:団信を「最強の防壁」に仕立てた理由

子どもが生まれた際、多くの家庭が真っ先に検討するのが「民間の死亡保険」や「学資保険」への加入である。

保険会社のセールストークでは、「世帯主に万一のことがあった場合、数千万円の保険金が出なければ家族が路頭に迷う」と不安を煽られる。

その結果、毎月1万〜2万円、夫婦で年間数十万円もの掛け捨て保険料を漫然と支払い続けているケースが後を絶たない。

しかし、家計防衛の観点から保障構造を冷静に分解したとき、我が家は「民間の生命保険には一切入らない」という結論に至った。

【世帯主に万一の事態が起きた際の公的・私的保障構造】
 ┌────────────────────────────────────────────────────────┐
 │ ① 遺族基礎年金 + 遺族厚生年金(国の公的社会保険)   │ 毎月の生活費・食費をカバー
 ├────────────────────────────────────────────────────────┤
 │ ② 団体信用生命保険(団信):住宅ローン残債が「ゼロ」   │ 家賃・住居費負担が完全消滅
 ├────────────────────────────────────────────────────────┤
 │ ③ 生活防衛資金(約900万円の現金)+ 運用資産           │ 突発的な教育費・臨時出費に対応
 └────────────────────────────────────────────────────────┘
 ⇒ 【結論】民間の生命保険に加入する論理的必要性がゼロになる

団信がもたらす「住居費ゼロ」の破壊力

賃貸住宅に住み続けている場合、世帯主に万一のことがあっても毎月の家賃支払いは一生涯続く。家賃が月15万円であれば、年間180万円、20年で3,600万円の固定費が遺族の肩に重くのしかかる。

だからこそ、その家賃を穴埋めするために民間の高額な死亡保険に入らざるを得なくなる。

一方、住宅ローンを組んで購入した場合、ほぼすべての住宅ローンに付帯する「団体信用生命保険(団信)」が発動する。

世帯主に死亡または高度障害が発生した瞬間、数千万円に及ぶ住宅ローンの残債は一瞬で全額免除(ゼロ)となる。

手元には、抵当権の外れた「無借金のマンション」が丸ごと家族に残る。

残された家族は、住居費(管理費・修繕積立金・固定資産税等の実費数万円を除く)の支払いを永久に免除される。

公的保障との組み合わせで計算する「遺族の収支」

住居費がゼロになった状態で、日本の公的セーフティネットである「遺族年金」を試算してみると、民間保険の不要論は数学的に明白になる。

平均的な会社員世帯(配偶者と子ども2人を想定)の場合、世帯主に万一のことがあった際に国から支給される公的保障は以下の通りである。

  • 遺族基礎年金: 約130万円/年(子どもの加算含む)

  • 遺族厚生年金: 約40万〜60万円/年(過去の報酬比例部分)

  • 合計支給額: 年間 約170万〜190万円(月額 約14万〜16万円)

住居費が完全に消滅しているため、この「毎月約15万円の非課税給付」だけで、食費、光熱費、通信費、日常の教育費といった基礎生活費はほぼ100%賄えてしまう。

さらに我が家には、約900万円の生活防衛資金(現金)と、全世界株式などで運用している積立資産が存在する。

「最初から民間生保に入らない」という判断ができたのは、住居費と公的保障の数値を精査していたからだ。

毎月数万円に及ぶ保険料の流出を未然に防ぎ、そのキャッシュフローの全額をインデックス投資の入金エンジンへと組み込むことができた。

2. なぜ新築ではなく「中古+リフォーム総額4,800万」だったのか

購入の目的が「家族の生活防衛」である以上、物件選びにおいて最も避けるべきは「見栄のための過剰なプレミアムを支払うこと」である。

日本の不動産市場において、最もコストパフォーマンスが悪いのが「新築マンション」である。

新築プレミアムという名の「見えないコスト」

新築マンションの販売価格には、純粋な土地代や建築資材費のほかに、以下の莫大なマージンが上乗せされている。

  • テレビCMや巨大看板などの広告宣伝費

  • 華美なモデルルームの建設・解体費用

  • 大手デベロッパーの営業人件費と企業利益(約15〜20%)

購入者が鍵を受け取り、玄関のドアを一度開けた瞬間に、これらの「販売マージン」は一瞬で蒸発する。

いわゆる「新築プレミアム(入居直後に市場価値が1〜2割下落する現象)」である。

資産形成の途上にある人間が、デベロッパーの広告費を肩代わりするために数千万円の過剰な借金を背負うのは、合理的とは言えない。

狙うべきは「価格が下落しきった、骨格の確かな中古」

マンションの資産価値推移(築年数別の価格下落カーブ)を観察すると、新築から築15〜20年頃にかけて価格は急激に下落するが、築20年を超えたあたりから下落ペースは極めて緩やかになり、ほぼ底打ち(土地代+最低限の建物価値)のフェーズに入る。

【マンションの築年数と価格下落カーブ】
 価格
  高 │ \ [新築プレミアムの急落]
     │    \
     │       \ [築15〜20年:下落が緩やかに]
     │         └───→ [築20年以降:底打ち・下げ止まり] ★ここを狙う
  低 └────────────────────────────────────────
     0年    10年    20年    30年    40年(築年数)

我が家が狙いを定めたのは、まさにこの「新築プレミアムが完全に剥がれ落ち、価格が安定期に入った中古マンション」であった。

  • 選定基準:

    • 構造・躯体がしっかりしており、管理組合の修繕積立金が適切にプールされていること

    • 駅から徒歩10〜15分圏内に位置し、駅近タワマンのような過剰なブランド料が乗っていないこと

    • 日当たり、通風、子育て環境、ハザードマップ上の安全性が確保されていること

リフォームを相見積もりで精査し「4,800万円」で着地させる

物件本体を適正な価格で取得した後、住環境の快適性を確保するために必要なリノベーション(水回りの刷新、壁紙・フローリングの張り替え、断熱性能の向上など)を実施した。

ここでもリフォーム会社の言い値でフルリノベーションを発注するのではなく、

  • 既存の配管や躯体で再利用できるものは活かす

  • 設備の型番を精査し、過剰なハイエンド仕様を排して実用的な中間グレードを選択する

  • 複数の施工会社から相見積もりを取り、中間マージンを排除する

徹底した仕様の最適化を行った結果、「物件取得費用 + リフォーム工事費用 = 総額4,800万円」という極めて低い損益分岐点に着地させることができた。

見た目は最新の新築マンションと何ら遜色のない快適な居住空間を、新築の半額近いコストで手に入れる。この「実質価値への集中」こそが、防衛の第一歩であった。

3. インフレと金利上昇の波に乗る「低利負債」のヘッジ機能

住宅購入を決断したもう一つの決定的な要因は、「マクロ経済におけるインフレと金利上昇の不可逆性」を織り込んでいた点にある。

多くの人は「借金=悪」「負債=避けるべきもの」と短絡的に捉えがちである。

しかし、インフレ(物価上昇・通貨価値の下落)の局面において、「超低金利で調達した固定負債」は、資産を守るための最強の防具へと反転する。

インフレ下における「現金」と「借金」の力学

デフレの時代であれば、現金(日本円)を銀行口座に寝かせておくことが最も安全な防衛策だった。

物価が下がるため、現金の価値が相対的に上がるからだ。

しかし、インフレが始まるとこの力学は完全に逆転する。

経済事象 銀行の現金(預金)への影響 住宅ローン(固定負債)への影響 実物不動産(コンクリート)への影響
物価上昇(インフレ) 購買力が目減りする(実質的損失) 借金の実質的負担が目減りする 建築資材・人件費の高騰で価格が上昇する
金利上昇 預金利息はわずかに増えるのみ 低金利で固定していれば返済額は不変 新規取得コストが上がり、既存物件に需要集中

仮に世の中の物価が全体で20%上昇した場合、1,000万円の預金の購買力は実質的に800万円程度まで縮小する。

しかし、超低金利(1%未満など)で借り入れた4,000万円超の住宅ローン元本は、どれだけ世の中の物価が上がろうとも「4,000万円という数字のまま固定」されている。

物価や名目賃金が上昇する社会においては、「過去の安い貨幣価値で固定された借金を、将来の目減りした貨幣価値で返済していく」ことになるため、実質的な債務負担は年を追うごとに軽くなっていく。

建築費高騰と相場上昇:4,800万円から7,500万円への推移

このインフレ予測は、その後の数年間で完全に現実のものとなった。

  • ウクライナ情勢や円安に伴う輸入建築資材(木材、鉄骨、ガラス等)の急騰

  • 国内の建設現場における人手不足と人件費の上昇

  • 新築マンションの供給価格が高騰し、需要が割安な優良中古市場へ大量に流入

これらの構造的要因が重なった結果、我が家が購入したエリア一帯の中古マンション相場は底上げされ、総額4,800万円で仕上げた物件の現在の市場価値は約7,500万円(+2,700万円)へと押し上げられた。

現金をただ普通預金に眠らせていたら、近年の激しいインフレによって購買力を大きく削ぎ落とされていたはずだ。

低金利のうちに負債を活用して「立地の確かな実物資産」へと資産を移転させていたことが、インフレに対する強力な防波堤として機能した。

4. 含み益2,700万円に浮かれてはいけない:真の果実は「低コストな生活の固定」

自宅の査定額が7,500万円になり、2,700万円の含み益が出ているという事実を前にして、多くの人は「売却して利益を確定させよう」「もっと広いタワマンに買い替えよう」と考えがちである。

しかし、私はこの物件を売却する気は一切ないし、含み益を自分の実力だと過信することもない。

自宅の含み益は「使えない資産」である

自宅を7,500万円で売却したところで、近隣の不動産相場も同じように高騰している以上、次に買い直す住居もまた割高な価格で購入せざるを得ない。

不動産仲介手数料(3%+6万円)や諸経費、引越し代を支払えば、手元に残る果実は大きく目減りする。

自宅の含み益とは、画面上の記号に過ぎず、日々の生活を豊かにするための流動性(キャッシュ)ではない。

本当に価値があるのは「住居費の損益分岐点の低さ」

この不動産購入がもたらしてくれた真の恩恵は、2,700万円の評価益などではなく、「毎月の住居費の損益分岐点が、極めて低い水準で完全にロックされていること」である。

  • 毎月の住宅ローン返済額: 4,800万円の総額ベースで低金利調達しているため、毎月の返済額は管理費・修繕積立金を合わせても月18万円台前半で推移。

  • 近隣の賃料相場との比較: 同等の広さ・快適性を持つ賃貸物件に今から住もうとすれば、月28万円以上の家賃が必要になる。

【毎月の住居コスト比較】
 ■ 同スペックの賃貸に住み続けた場合 : 月 約29万円(年間 約348万円)
 ■ 中古+リノベで購入した現在の実費 : 月 約13万円(年間 約216万円)
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 毎月 約13万円(年間 約156万円)のキャッシュフローが自動で浮遊する

毎月13万円、年間156万円もの住居コスト差額が生み出され、その浮いたキャッシュが毎月淡々と全世界株式やS&P500のインデックスファンドへと自動投入され続ける。

「住まい」という人生最大の固定費を安全圏に固定し、毎月の余剰キャッシュフローを最大化する。この構造を作れたことこそが、総資産9,100万円超へと至る最大の推進力となった。

5. まとめ:見栄の住まいを捨て、「生活の安全基地」を築け

マイホームの購入を「ステータス」や「自己顕示欲の誇示」のために行う人は、新築のタワーマンションを限界いっぱいのペアローンで購入し、毎月の激務と高額なローン返済に怯え、民間保険の特約を山盛りに積み上げて家計を破綻させていく。

しかし、住宅購入を「家計防衛の金融戦略」として論理的に捉え直せば、景色は正反対になる。

  1. 最初から民間の生命保険に入らず、団信を主軸の保障に据える。

    世帯主に万一のことがあれば住居費はゼロになり、遺族年金と生活防衛資金だけで家族の生活は恒久的に守られる。

  2. 新築プレミアムを避け、下落の落ち着いた中古と適正リフォームを選ぶ。

    広告費とデベロッパーの利益を払わず、実質的な居住価値だけを相見積もりで安く買い叩く。

  3. インフレと金利上昇を見据え、低利負債で現物資産を固定する。

    現金の目減りを防ぎ、マクロ経済の波を家計の味方につける。

  4. 含み益に浮かれず、低い損益分岐点を生涯の防護壁にする。

    毎月浮いた住居コストを市場の複利エンジンへ送り込み、資本の自走を加速させる。

家とは、他人に自慢するためのショーウィンドウではない。

風雨を防ぎ、外の激しい経済環境や社会のプレッシャーから家族を守り、明日への活力を静かに養うための「絶対的な安全基地」である。

見栄を捨て、構造で勝つ。

この揺るぎない生活防衛の規律こそが、予測不能な時代を平然と生き抜くための最強の盾となる。